「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったもので、日増しに春めいてきました。わが家の庭にも、梅の花に代わって、山茱萸(サンシュユ)が鮮やかな黄色い花を咲かせています。山茱萸は、中国や朝鮮半島が原産の落葉木で、日本では江戸時代に薬用植物として栽培が始まったと言われています。早春になると木全体が黄金色に輝いて見えることから、別名春黄金花(はるこがねばな)とも言います。
サンシュユの名前は「山茱萸」の中国語の発音「shanzhuyu」からきています。秋になると楕円形の赤い実がたわわに実ることから秋珊瑚(あきさんご)とも呼ばれます。
この果実の種を取り除いて乾燥させたものが生薬<サンシュユ>で、滋養強壮、疲労回復などに効果があるとされています。また、冷え性・頻尿・肝機能障害の改善、血糖値を下げる作用、免疫力を向上させる作用がある“老化防止”の漢方薬だというので、秋になったらぜひ手作りの生薬<サンシュユ>を作ってみようと思います。
そしてもう一つ、山茱萸には驚くべきパワーがあるんです。それは――山茱萸の枝でヨーグルトを作ることができるというのです。山茱萸の枝の中には乳酸菌が含まれており、40℃ほどに温めた牛乳の中に入れておくと、発酵して固まり、ヨーグルトになるというのです。ヨーグルトの本場ブルガリアには“ヨーグルトの木”と呼ばれるドリャンの木があり、山茱萸はその親戚にあたるので、ヨーグルトが作れるのだそうです。
なるほど…ということで、本当かどうか早速試してみました。用意するものは、山茱萸の枝と牛乳。約40℃に温めた牛乳に山茱萸の枝を入れて1日置いておくと発酵するというけれど、根っからの“ものぐさ人間”である私にとって40℃前後で1日保温し続けるのは至難の業。心なしか底のほうが少しドローっとしてきたような気はするけれど…残念ながら固まりませんでした。たかがヨーグルトではあるけれど、失敗はやはり悔しい!
しかし、山茱萸の木にこれほど不思議な力があるとは…。こんな“魔法の木”がわが家の庭にあると思うと、これまで苦痛だった草ぬきや庭掃除が楽しくなってきました。そう思って眺めてみると、山茱萸の黄色い花が、本当に“黄金の花”に見えてきました。久しく忘れていた、花をめでる心や植物をいたわる心を、山茱萸が思い出させてくれたようです。春だけでなく、優しい心とウキウキするような楽しみを運んでくれる有り難い花です。Thank you山茱萸(サンキュー、サンシュユ)!(稲井富赴代)
春を告げる花 山茱萸(サンシュユ)