ハラカドとオモカド

ゴールデンウィークに東京に行っていたので、マスコミに取り上げられていた「ハラカド」に行ってみた。ハラカドとは2024年4月に原宿に新しくできた商業施設で、地下には銭湯もある(2024年5月6日現在、銭湯は近隣住民のみしか利用できないので残念ながら入れなかったのだが)。建物は地下1階、GF(グラウンドフロア)、1階、2階、とつづき、7階までの全9フロア。1・2階は物販中心で従来型の商業施設のイメージ。3階は物販スペースもあるものの、FMラジオ局のレンタルスタジオや、企業のショールーム、会員制カフェなど物販以外のスペースが占めている。目を引くのは4階から上である。4階はリラックス空間とでも呼ぶのだろうか。カフェがあるだけで、あとは壁や床に絵が描かれていたり、木の置物があったり、椅子がおかれて購入した飲み物を飲むという、ただそれだけのスペース。5階はフロア全体が飲食店。そして6階は飲食店が入っているが、緑豊かな森を思わせる外部空間が半分ほど占めている。一番上の7階はテラスが半分以上。
つまり、神宮前交差点という都内でも屈指の立地で地価がとんでもなく高い場所(おそらく1平米あたり500万円くらいか?)の施設でありながら、地下に銭湯(料金は520円で東京の他の銭湯と同額!)があったり、モノを売るスペースは半分程度という、常識外れの「商業施設」となっている。正直、「これでどうやって儲けるんだろう?」と思ってしまう。

神宮前交差点を挟んで「オモカド」がある。こちらは2012年に開業した商業施設で、世界一の朝食が食べられる店舗が入っているなど、ハラカドと同じく、開業当時、マスコミをにぎわした商業施設である。ハラカドとオモカドは、神宮前交差点を対称点として建物の雰囲気もよく似ているので鏡に映したようにも感じられるが、その中身はハラカドとは全く異なる。上層階の飲食店を除くとテナントは基本的には物販の店舗が中心で、いわゆる典型的な商業施設である。開店前にオモカド前に大行列を作っていたと推測されるBTSのPOP-UPにいたArmyたちを除くと、ハラカドのにぎわいとは異なり、施設全体でみるとオモカドのほうは少し落ち着いた感じの人の入り具合である。

2012年にできた施設と2024年にできた施設。ちょうど干支が一回りして、消費の在り方が大きく変化したことをオモカドとハラカドは如実に表しているのではないだろうか。「コト消費」という言葉がよくつかわれるが、供給側はモノを売るのではなく、体験を売るにはどのような商業施設にしたらいいのか、ハラカドにはその試行錯誤が感じられる。たとえば銀座にある物販中心の商業施設のいくつかは、立地が抜群であるにもかかわらず閑古鳥が鳴いている。そのためテナントが集まらず閑散としており、それがさらに客を離れさせるという悪循環になっている。ハラカドには、「そういう商業施設にはさせないぞ」という開発者側の強い意志を感じるというと言い過ぎだろうか。
現時点のハラカドとオモカドの人の入り方の違いは、もちろん、ハラカドのほうが最近できたばかりだからという理由が大きいだろう。しかし、今やあらゆるモノがネットで買えるので、物販を中心とする施設は、集客はかつてほど容易ではない。オモカドの人の入り具合は少なからずそのような消費行動の変化が影響しているのではないだろうか。他方、体験を売るということは、わざわざそこに行かなければ消費できないということであるから、その場に行く理由が存在する。さらには人と人の交流を促す場として商業施設をとらえているようにも感じ、ハラカドは現代の消費行動を背景にしたチャレンジングな商業施設なのだろう。人の集まるところ・交流するところに情報が集まり、ビジネスが生まれる。今後、ハラカドはいったいどのような情報を発信してくれるのだろうか、楽しみである。

ちなみに筆者自身はハラカドよりもオモカドのほうが面白さを感じた。体験ベースという点でいうと、その意味では筆者の中ではハラカドよりもオモカドに軍配が上がる。オモカドは2012年から施設としてシジュウカラの営巣に取り組んでおり、成功したのはこれまで3回。そして今年は2年連続、営巣に成功し、それを入口の階段に大々的に宣伝している。これだけ聞くと、「だから何?」となるのだが、当事者はいたってまじめに取り組んでいる。フロアごとに営巣プロジェクトに関するいろいろなコメントが書かれており、その本気度がじんじんと伝わってくる。こういう、表参道のど真ん中で、枠にはまらない奇天烈なことを、何年にも渡り、いたってまじめにやる。そういうの、面白くないですか?

藤原泰輔