5泊6日の日程で台湾に行ってまいりました。今回の目的は、単に「台湾鉄路(台鉄)の乗り鉄」で、台中を拠点にして、合計で台湾2周半程度の距離を乗りました。そこで、今回の話題は「台鉄乗車の印象」となります。
話の前提としての台湾島の大きさについては、九州島から佐賀・長崎県を覗いた部分とほぼ同じとイメージすればよく、台北を福岡、台中を熊本、高雄を鹿児島、台東を宮崎、花蓮を大分あたりに置き換えれば都市の配置はわかりやすいと思われます。これら都市を、台鉄の路線である西部幹線(基隆~枋寮、約460km)、南廻線(枋寮~台東、約100km)、東部幹線(台東~八堵、約320km)が環状に繋いでいるのです(なお、支線として平渓線、内湾線、集集線などがあります)。
そして、日本のJRの状況とは大いに異なるのが、新幹線に例えられる「台湾高速鉄道(高鉄)」の開業後も、並行する西部幹線には多数の長大編成の特急列車が「台湾半周はアタリマエ」という長距離運用形態で運行されていることです。
乗り鉄のために今回使用するのは「台湾高鉄・台湾鉄道特級5日ジョイントパス」、台鉄は5日間、高鉄が2日間、特急列車を含めて乗り放題となる外国人向けの切符です。この切符は3,600元(2024年現在、1元≒¥5)と格安なのはありがたいのですが、泣きどころは、高鉄の方は日本でネット予約できるのに、台鉄の予約は、台湾入りした後の現地の駅窓口でしかできないことです。おかげで金土日曜では、予定していた列車がすでに満席で、スケジュール変更を余儀なくされたこともありました(台鉄の大半の特急列車は全席指定です)。
乗車した特急列車は、どれもほとんどの区間でほぼ9割程度の乗車率(例外的に平日の東部幹線、南廻線で5割程度)で、ビジネス用務よりも行楽・観光での利用が多数と見受けられました。この乗車率はJR各社の状況と比較すると盛況という他ありませんが、これでも以前よりは空いているらしく、このことには、近年の新型特急EMU3000型の投入による輸送力増強も要因の一つであるようです。ただし、個人的には、この新型特急の座席は薄っぺらで、長時間の乗車では腰や尻が痛くなり、座り心地は従来の客車タイプの車両の方がよほどよいと感じました。
車窓から見える景色は、混雑度も相まって、期待したほどではなかったです。大雑把に表現すると、西部幹線の大都市付近は高層ビルや集合住宅ばかり、郊外は工場や田んぼばかりでちっとも面白くなく、東部幹線は田んぼと畑、そして未利用地(ジャングル)、時々集落といった感じで、南廻線のみが海あり山ありで風光明媚という言葉に値します。ちなみに、4月の地震の影響は、花蓮付近で多少の徐行があった程度で、発生直後の日本での報道イメージほどではなく、花蓮駅も観光客でごった返していました。
台鉄有人駅の窓口営業時間は、多くの駅で6:00~24:00で、最近のJR各社とはえらい違いであり、各駅にも列車内にも職員が多数配置されており、情報を問合せるのに苦労はありません。経験した範囲では、まさに「住民のための鉄道」という好印象を持ったのですが、反面、さすがに職員数が多すぎるのでは、と懸念しました。帰国後に調べたら、案の定、かつての日本の国鉄のように近年の収支は大赤字で、その改革のために、この1月、政府運営の形態から公営企業に改変されたとのことです。
今回の昼食と夕食は、主に「台鉄弁当」を食しました。同弁当は80元とか100元で、コンビニでパンなどを買うよりはよほど安くておいしい食事になります。さらに、主要駅の改札口付近には、無料の給湯器が配置されており、飲み物もわざわざ買う必要がありません。このため、今回の乗り鉄はほとんどお金を遣わないで済んだのですが、さらに、台中駅付近でたまたま「華圓池上飯包」という店舗を見つけてテイクアウトしたところ、同様な値段でこちらの方がよりおいしかったので、この類いの店は探せば、他にもいくつかあるのかもしれません。
最後に、乗り鉄の間、駅でも列車内でも、日本語は耳にせずじまいでした。往復の飛行機でも日本人は全体の1割以下で、投宿したホテルでも日本人に会いませんでした。昨年の出張時でも同様な傾向にあり、つまり、現在の各観光地の賑わいは、外国人にあらず、台湾人が大半を担っているようです。我が国の観光地がインバウンド頼みになりつつあるのと対照的ですね。今回で台鉄全路線の93%を乗り潰したわけですが、残る区間はどうしましょうかね。
正岡利朗