産官学の国際交流 -モンゴルとの交流-

モンゴル側より、産官学で「Techno Park」プロジェクトを進めることになったので、相談したいとの話があり、関西のメンバー数名と共に8月下旬にウランバートルを訪問した。モンゴル側関係者から伺った話では、モンゴル国としては、2020年までに力を入れる産業近代化重点分野5つを設定した。・家畜利用の高度化・鉱山産業の拡大・自然食品産業の発展・観光産業の発展・繊維産業の川下展開の5つである。それぞれの詳細は後述することとして、これらの重点分野を産官学連携で先進国レベルあるいはそれよりも進んだレベルにするための一つの施策として、「Techno Park」をウランバートル郊外に建設することになった。ついては、日本の実例等を紹介してほしいというものであった。
1.テクノ パークはどのような機能を持つのか
そこで、川崎サイエンス パークや福井テクノ パークの例を示しながら下記のような話をした。「テクノ パーク」とか「サイエンス パーク」といったプロジェクトは日本等多くの国で取り組まれており、それぞれ成果を上げている。また、それぞれのプロジェクト内容は多様である。たとえば、
・技術者教育を行い、育てる。
・起業時のインキュベーション施設を提供する。
・特定分野の企業を数多く集め、技術集積を図る。
・生産に関連する企業を集め、効率的な生産を行う。
・販売支援を行い、参加企業の営業効率を高める。
・海外からの技術移転を支援する。
・R&Dセンター機能を持つ。
等々いろいろある。
これらの機能のうちどのような機能をテクノ パークに持たせるかは産業分野により異なる。そこでモンゴル国としてどのような産業分野の発展を期待して「Techno Park」を作るのかについては、今後関係部門と調整を行いながらまとめていく事となった。
2.産官学がそれぞれ持てるものを提供する
「学」は本来知識そのものに価値を置く「知の共同体」である。事象を科学的根拠に基づいて分析・判断し、その成果をわかりやすく社会に提供するという役割を果たしてきた。新市場の多くは「学」からの新技術の提供により発生・発展してきた。特にモンゴル国では「学」の成果を社会に開放し、市民生活を豊かにするだけでなく、産業を発展させることをも目的に「学」としての研究を進めることが期待されている。言い換えると、今までのように出来上がった成果を単に社会に提供するだけでなく、「官」「産」とともに社会に役立つ成果を求めるプロジェクトチームを作り、ハイリスクではあるが、実用化されれば大きな社会の発展に繋がるテーマにチャレンジすることが求められている。筆者が以前参加した産官学プロジェクトでは、「産官学」が相談してプロジェクトの目的を決めたうえで、「官」が中心となって予算を確保した。この予算確保の段階で、事業成功の可能性が深く検討された。予算が確保されたのちは、「産と学」はそれぞれの持つ資源を活用して「官」と共に決めた目的を達成する方法をプロジェクト推進の中で見つけ出していくという仕事分担をおこなった。上記の進め方を今回のプロジェクトに当てはめると、ターゲットとする産業が決定しているものの、どのような問題点を解決すれば産業が発展するかの検討が十分ではない。「学」も問題点が明瞭でないため、大学のどこにその「知」があるのかが不明確なまま議論が進んでいるように感じた。
3.産官学メンバーの持つ知識は何か 何を分担するのか
今回の会議でも多くの課題が提供され、それぞれが大きな課題であることが認識された。たとえば、「家畜利用の高度化」では、家畜の肉と皮以外の廃棄している部分が多いので、これらを有効活用したい。数年に一度発生するゾドで死んだ100万頭以上の羊等を活用したい。「鉱山産業の拡大」では銅の加工、石炭を原料とした産業を発展させたい。「自然食品産業の発展」では地方により独特の自然食品が多くある。このそれぞれを大きな産業にしたい。「繊維産業の川下展開」ではカシミアの用途開発・染色品質改善・デザイナーの育成等々の課題である。このようにあまりにも多くの分野や質の課題が議論された。次のステップとしては産業を絞り、ビジネスとして成り立つテーマに関して、質の高い議論を行い、明確な方針を打ち立てることが必要である。そのためには、テーマごとに参加者を募り、参加者が分担して事前調査した項目に関して十分な議論を行うという方法がいいかもしれない。
4.小さく生み、大きく育てる
今回の訪問では以上の議論の後、議論に参加したメンバーで進めることができるテーマを検討した。その結果、自然環境を活用したブランド牧畜や羊・山羊の有効利用、カシミアの品質向上、大気汚染の改善、寒冷地向けコールド・チェーンやエアコン、自動車整備工場のレベルアップ、計算機ソフトウェア技術者の育成、ロシア等との貿易等がテーマとして上がり、検討の結果まず日本製冷凍機を使用したコールド・チェーンの検討を行うことになった。議論の過程を簡単に述べると、モンゴル国は人口290万人と人口が少なく、自国で開発・生産すべき工業製品は限られる。それ以外の工業製品は輸入し、設置工事・メンテナンスをモンゴル国内で行うのが好ましい。以上の前提をもとに改善できる分野を洗い出すと、冷凍機械も冷凍車も案件毎に完成した商品として輸入され、効率的なコールド・チェーンが構築されているとはいいがたい。そこで、モンゴル国という自然的立地因子や経済的立地因子を十分に分析したうえでモンゴル国に適したコールド・チェーン・システムを設計することとした。一つ笑い話をすると、日本製のエアコンが正常に動くのはマイナス15度までで、マイナス30度のような本当に暖を取りたいときには止まってしまう。これが改善できれば100万台以上の需要があるとの話があった。
5.「学」はどのような形で産業の発展に関与するのか
モンゴル国産業界は経営理論を学ぶ段階から、実際の会社経営とか運営の改善といった事業活動に経営理論を適用し、効率的な会社運営を実現する段階に入っている。モンゴル国側も企業が抱える経営問題解決への実践的示唆やヒントを獲得できる研究や議論を希求していると感じる。(丸山 豊史)