作家・山崎豊子さんに学ぼう

2013年9月29日未明、山崎豊子さんが心不全で亡くなった。享年88歳。改めて紹介するまでもなく、山崎さんは社会派小説家として知られ、その著作は、医学界に鋭いメスを入れた『白い巨塔』、シベリア抑留から生還した男の生き様を描いた『不毛地帯』、中国残留孤児の苦難を描いた『大地の子』ほか数多い。権威や聖域にも挑戦し、作家としての勇気と信念を持って書き続けた。戦争で生き残った者としての使命感に突き動かされて書いたと言う。
1998年の晩秋、山崎さんが「大地の子と私」と題する講演会のために来高したとき、会場のホールで偶然に言葉を交わす機会を得た。実に気さくで柔和な物腰の女性だった。ほんの二言三言の遣り取りだったが、その時の様子を今も鮮明に覚えている。好奇心が旺盛と見えて、ホール内を見回しながら悠然と歩いていた。そのときの嬉しそうな表情と、夢見るような瞳が忘れられない。
人は“出会い”によって成長する。出会いは様々。それが自然や物、あるいは動物であったり、人であったりするだろう。人の場合は身近な人とは限らない。古今東西を問わない。書物を通じて多くの人と知己になり、その考え方や思想を学ぶことができる。山崎さんの著作は、書店にたくさん並んでいる。その多くが映像化されているので、若い学生の皆さんも、ぜひ彼女の創り出す世界に触れ、人の痛みを知り、正しいことを正しいと判断して声を上げられるような、そんな健全で心豊かな人間になって欲しいものである。
作品を心の糧とした者の一人として、山崎豊子さんのご冥福をお祈りします。(池内 武)