3年ぶりの学生研修旅行

10月15日(土)、学生研修旅行で徳島県祖谷(いや)のかずら橋に行ってきました。3年以上も帰国が叶っていない留学生たちにとって、コロナ禍の生活はストレスの塊。入国制限の中でやっと来日できた留学生は、今回はじめて香川県外に出たそうです。そういうわけで、皆この日を心待ちにしていました。参加者は、中国、ベトナム、インドネシアの11名の留学生。祖谷は、岐阜県白川郷、宮崎県椎葉村と並ぶ日本三大秘境の一つで、屋島の戦いで敗れた平家の落人伝説が残っている所です。急峻な山々に張り付くように点在する集落と茅葺き屋根の古民家が日本の原風景を感じさせ、近年外国人にも人気の場所です。
大歩危小歩危(おおぼけこぼけ)の渓谷美を楽しみながら、2時間余りかけて目的地のかずら橋に到着。紅葉にはまだ早いからか、観光客はまばら。おかげでゆっくり橋を渡ることができました。通行料(550円)を支払い、かずらで編まれた橋の手すりにしっかりつかまって、恐る恐る歩を進めます。
「先生、大丈夫ですか?」。前を歩く留学生が心配げに声をかけてくれました。
「私は大丈夫! 子どものころ何度も渡ったことがあるから」と言ったものの、2、3歩進んだところで立ち止まってしまいました。あっ、怖い!? えっ、どうして? それでも、動揺を隠して留学生よりも先に渡り切りました。
一歩進むたびに、ギシギシ、ゆらゆら。橋床は隙間だらけで14m下の渓谷が丸見え。留学生たちはキャアキャア言いながら喜んでいましたが、この橋は一方通行なので、高所恐怖症の人は渡る前によく考えたほうがいいかも。それから、スマホで写真を撮る人は、落とさないように十分気をつけて。
昼食後は、渓谷を見下ろせるテラスで、しばしヤマガラと触れ合いました。手のひらにヒマワリの種を載せておくと、次々にヤマガラが飛んできてついばんでいきます。これには、鳥が苦手な人でもテンションが上がります。
帰路は脇町のうだつの町並みを散策しました。「うだつ」は屋根の両端に造られた防火壁で、設置に多額の費用を要したことから、豪商たちの富の象徴となっていたそうです。「うだつが上がらない」という言葉の語源にもなっています。脇町には400mにわたるうだつの家並みが保存されており、かずら橋と同様に、最近外国人から注目されています。
祖谷も脇町も子どものころに何度も訪れた場所ですが、道路や商店が整備され、国内はもとより海外からも大勢の人が訪れる人気観光地に変貌しました。政府の水際対策の大幅緩和により、インバンド需要の回復に期待が高まるなか、再び外国人観光客でにぎわう日もそう遠くはないでしょう。しかし私は、観光地化されたかずら橋に昔の思い出を重ねることができず、寂しさを感じてしまいます。バスの運転手さんから「奥祖谷二重かずら橋には、まだまだ秘境らしさが残っている」と聞いたので、機会があれば訪れてみたいと思います。
3年ぶりの学生研修旅行。参加した留学生たちからは、「楽しかった」「来年はどこに行きますか? 来年も絶対参加します!」という声がこれまで以上に多く、コロナ禍にあって、彼らの留学生活がいかに味気ないものになっているか、容易に想像できました。日帰りではありましたが、コロナ禍で溜まっていたストレスを少しは解消できたようですね。

 

稲井富赴代