備災を深化させよう

昨年より当方は、所属する日本計画行政学会の学会賞である「第19回計画賞」について、四国支部の推薦人として、応募団体の予備審査、最終審査に至るまで、適宜アドバイスを行ってきました。今回の応募団体は高知県黒潮町、応募のタイトルが「34.4mショックから防災地域づくりの先進地へ -黒潮町の挑戦― 「対策」ではなく「思想」から入る防災」というものでした。幸いに黒潮町の計画は2022年2月末の最終審査で最優秀賞に選出され、当方としても大いに喜んだのですが、手放しで、というわけにはいきませんでした。
なぜならば、我が身を振り返ると、このことを契機として防災に対する関心はこれまで以上に高まりはしたのですが、それが自らの行動の深化には結びついていなかったからです。そこで、審査終了後、ぜひ我が家の防災を深化させようとの考えに至った次第です。さて、それでは、具体的に何をすればよいのでしょうか。地方自治体などは防災計画の立案から始まって、ハード施策では「津波避難タワーの整備」、ソフト施策では「防災訓練の充実」など、実際に災害を防ぐ、減じるための手段が採れます。しかし、一個人では、災害を防ぐことなどとてもできず、災害発生後に備える「備災」がせいぜいです。そして、香川県在住の身としては、他県よりも台風も火山噴火も雪害も深刻度が相当低く、一方、南海トラフ地震は確実に起こることが想定されています。そこで、大地震発生後を想定して備災を深化させることが第一歩であると思われました。
ただし、食糧の備蓄や防災グッズの用意など、多くの防災関連図書やHPに書かれているようなことはすでにそこそこやっています。また、自宅のさらなる耐震化などにはとても手が回りません。そこで、できることは何かといろいろ考えを巡らせていったのですが、2022年3月現在までにとりあえず、①避難所としてのクルマ、②ポータブル電源、③消火器、④耐火金庫について整備しました。これらのうち、まず、①②については、せっかくN-BOX+という車中泊に適したクルマをすでに所有しているのですから、これを使わない手はない、そこで、整備とは大型保冷バッグ、携帯湯沸かし器、調理道具一式、簡易トイレなどを常時積み込むことで、今や車上生活すらできそうです。さらに、非常用の電源を確保するために約600Whの容量のあるポータブル電源と、曇天で20W程度、快晴では80W以上の出力があるソーラーパネルを購入しました(これらは、普段、職場でスマホ等の充電に活用し、80%程度の残量を維持するように運用しています)。
次に、③④については、地震の際に生じる可能性のある、地域を巻き込んだ火災に対する備えです。すでに自宅新築時に消火器を1本配備してはいたのですが、使用期限をとうに過ぎており、この度業務用のモノを買い足しました。そして、火災の際に、パスポート、保険証券、預金通帳、マイナンバーカードなどの重要書類が焼失してしまっては被災後の生活のスムーズな復旧に支障を生じます。そこで、30分の耐火性能のある金庫を購入しました。これは、重量27kg、内寸法はW356×D220×H276mmであるので、中にA4サイズの耐火セーフティバッグを5つ程度収納することができます。この体制により、安価に、多少は耐火性能を高めることができそうです(もちろん、大火災発生時にはこれら程度の備えではとても間に合いませんが)。
この際の問題は、「各セーフティバッグに何を入れるべきか」でした。重要書類だけであれば、セーフティバッグ1つだけで十分収納できます。しかし、小さな金庫とはいえ、まだまだ余裕があるのですから、この際、その他の「大切なモノ」も収納しておくことが正しい備災のあり方でしょう。そこで、昔の写真などの思い出の品を取捨選択する必要が生じたのですが、こうなると、まるで「終活」の一環ですね。ちなみに、DVD-Rなどの各種の記録メディアは、火災に遭うと紙より脆弱です。しかし、メディアに記録された各種データも大切なモノであるには違いなく、しかも、各メディアには経年劣化による「寿命」があるとのことです。そこで、現状では、「高耐久性メディアであるM-DISCにアーカイブして保管する」ということになるでしょうか(読み出し機器の方が残っているのかという問題もありますが)。
このように我が家の地震に対する備災を少しは深化させたわけですが、「いくら対応を図っても、現実はさらにその斜め上を行く」との思いも確かで、在宅時に被災したのならまだしも、被災した場所が職場や旅行先であったり、さらに季節別にケース分けしたりするときりがなく、結局、「畳の上の水練」に過ぎないのでは、との自己評価になります。一方、各所で起こっている地震の報道を見る度に、それでも少しはやっておくべきだとも思わされます。しかし、現在の日本に住んでいたらほとんど想像できない、テロや武力攻撃の可能性まで想定して備災をするとなると、いよいよ一個人ではお手上げとなるような...。

正岡 利朗