『未来の学習』と自己学習 

人間は想像力以上には飛べないのか。劇作家で詩・歌人の寺山修司は「どんな鳥も想像力より高く飛べる鳥はいない。人間に与えられた能力のなかで、一番素晴らしいものは想像力である」と詠んでいる。しかし、現実には、人間も自分がイメージした以上には飛べないし、走れない。このことはその他のことでもいえる。例えば、教育の世界でも学力は想像力以上には伸びないし、想像力がないと創造力もついてこない。想像力は目に見えないものを頭の中でイメージする力で、創造力とは目に見えないものを目に見える形で実際に創り出す力だといえ、現代社会では前者は主として学校教育で、後者は実業界から要求されている。
『想像力を触発する教育』(2005)の著者キエラン・イーカンは、想像力を伸ばすための15の学習法則を示している。①物語性を重視した学習、②常に2つずつ発想する対概念思考でイメージを膨らませる、③比喩を使って譬え話や連想をしてみる、④想像力のルーツは驚きに発しており、何事にも驚きをもって接する、⑤手描きでイメージを図示・図解してみると、自分に何が分かっていないかを蝕知できる、⑥様々な言葉になじみ、例外や謎にも関心をもつ、などである。
今、ユネスコ教育開発国際委員会が1973年に公刊した『Learning to Be(未来の学習)』という報告書を読んでいる。この報告書は、委員長がフランス元首相のエドガー・フォールEdgar Faureであったことから「フォール・レポート」と呼ばれている。この中で未来の社会形態を示す概念としてラーニング・ソサエテイ(学習社会)という言葉が使われている。「学習」が体質化した社会のことで、フォールは「教育の目的は、人間に自己確立、すなわち自己自身になるようにさせること」であると述べ、学習社会では、「持つhave」ためから「あるbe」ために学習すべきだと説いている。
このような学習社会論の登場は、人材育成を目的とした教育投資論的思想の終焉を意味しており、「未来の学校は、教育の客体を自らの教育を行う主体にしなければならない。教育を受ける人間は自らを教育する人間にならねばならない」と自己学習の大切さを予想している。48年後のコロナ禍の現在、まさにフォールが予想した通リ、自己学習の重要性が再確認され促進されているところである。この機会に学生の皆さんの自己学習力(特に想像力)の向上に向けた取り組みに期待したい。

(溝渕利博)