自分の中での“プチDX”

時節柄、3月決算の会社から定時株主総会招集通知が送られてくる時期である。筆者の手許にも何社かの招集通知が送られてきている。株主総会の招集通知は株主としての意思を表明する一つの機会なので必ず議決権を行使することにしている。

この招集通知を見ていると、今の時代について改めて考えさせられる。通知を受け取ったすべての会社において、「新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、来場を控えてほしいこと」、そして「インターネットないしは書面による議決権の行使を推奨すること」の2点が必ず書かれていることである。

実は、今回、遅ればせながら初めてネットで議決権を行使した。これまで何回かリアルな場での株主総会に参加しているが、これはこれで楽しいものである。また先述のように、株主総会に参加できない場合は必ず議決権行使書を送っていた。もちろんネットを使った議決権行使はコロナウイルスが広がる前からすでに行われていたが筆者は利用していなかった。理由を並べようと思えばいくつか挙げられるが、要は、QRコードリーダーのアプリをスマホにインストールするだけなのにそれをしていなかったという、単に自分の怠惰のせいである。

しかし、スマホを新しくしてQRコードリーダーもインストールし、今回初めてネットで議決権を行使したらこれが非常に便利。QRコードを読み込むと自分の名前が出てきて(つまり一人一人にQRコードが割り当てられているということだろう)、議案が表示され、賛成・反対の表示が出てくる。さらには、「すべての議案に賛成」という表示もある。いつも基本的にはすべての議案に賛成していたので、スマホでその項目をポチっと押すだけで終了。住所を隠すシールを貼る必要もないし、郵便ポストまで行く必要もない。

今、新聞などでDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉をほぼ毎日見かけるが、今回のネットによる議決権行使は、自分の中での「プチDX」とでもいえるかもしれない。DXと聞くと仰々しく難しそうな感じがするが、DXの推進には、身近なところや小さなところからデジタル化していく、デジタルに慣れていくことが必要なのだろう。ネットでの議決権行使が会社のガバナンスにもしかしたら負の影響を与えるのではないかという議論もあるかもしれない。他方、むしろ手間がかからないので議決権行使が増えることも考えられガバナンスにプラスに作用することも考えられなくもない。いずれにしても一度この便利さを体感すると、少なくとも自分は後戻りできないと感じている。

冒頭に、招集通知に「来場を控えてほしい」という記述があると書いたが、これについては思い切って株主総会をリモート限定にすればいいのではないか。それではITに詳しくない人・PCやスマホを持っていない人は参加できないなど様々な批判は出てくるだろが、今でも地方に住む株主が東京で開催される株主総会に出席するのは非常に難しい。本気で株主総会に参加する意思を持っている株主であればリモートで参加できるように自ら工夫するだろう。また法制度上できないということだろうが、そうであればさっさと法制度を改正すればよい。通知についても紙の議決権行使書を送るのではなくQRコードをメールで送ればよいだけである。マイナンバーを活用するとさらに効率的にネットでの議決権行使ができるようになるかもしれない。総会を開催する会社側は株主総会の会場の手配など大変な作業を行わなくてもよくなる。その他準備に必要な時間も削減することができるだろう。

筆者のネットによる議決権行使の話に象徴されるように、要するにやるのかやらないのかの問題である。何かをやろうとして実現しなかった場合、それは「やれなかったのか、やらなかったのか」どちらなのだろう。多くの場合は後者なのではないだろうか。自戒を込めて。

(藤原 泰輔)