うれしい来訪者

早いもので、今年もあと1カ月を残すのみとなりました。毎年この時期になると「今年の漢字」が話題になりますが、私の今年1年を漢字一文字で表すとしたら、それは“来”。何が来たかというと……、かつての教え子たちです。それも海を越えて、わざわざ訪ねて来てくれたのです。

この仕事をしていて一番うれしい瞬間は、教え子たちとの再会の時です。今年はそういう瞬間を何度も味わうことができました。

まず最初は、上海の日系企業で働いている張さん。3月に研修で1カ月間神戸にやって来ました。上海に行くたびに彼に世話をかけているので、新潟にいる友人を誘って、彼を北陸の旅に招待しました。上海蟹の何倍も美味しい越前蟹に舌鼓を打ち、温泉に浸かって、自分の背より高く積もった雪に驚きの声を上げ、楽しいひと時を過ごしました。

5月には、同じく上海の日系企業で働いている郭さんが、社員旅行で来日した折に、「先生の故郷を見てみたい」と言って、自由時間を利用してわざわざ高松まで会いに来てくれました。しかし、上海の高級マンションに住んでいる彼の目には、日本の庶民の家は、貧乏臭く見えたかもしれません。
そして10月には、夫の転勤で現在大阪に住んでいる李さんが、お父さんと2歳の娘を連れて会いに来てくれました。

実は、張さん、郭さん、李さんの3人は、私が西安の大学で日本語教師をしていたときの教え子。当時まだ20歳だった彼らもすでに30代半ば。会社では課長、家庭では一児の親。私が「あいうえお」から教えた日本語も、今では日本人とほとんど変わらないレベルになりました。

普段ソウルに住んでいる李さんのお父さんは、初来日。「娘に日本留学の機会を与えてくれてありがとう。あなたのおかげで、娘はいま日本でこんなに幸せに暮らしている」と感謝されましたが、お父さんと娘を連れて会いに来てくれた李さんに、むしろ私のほうこそ感謝したいくらいです。

さらに11月には、中国山東省の国立大学で教員をしている時さんが、京都での学会のあと、会いに来てくれました。時さんとは青島出張の折に何度か会っていますが、日本で、それも高松で会えるとは思ってもいませんでした。彼は本学卒業後、北海道大学大学院に進学し、博士号を取得した伝説の留学生。時さんの突然の来学に、学長はじめ、在学中の彼を知る教職員もたいそう喜んでくれました。

彼らと出会って15年以上になりますが、今でもこうして会いに来てくれる――なんと有り難いことでしょう。海を越えてやって来た来訪者が“至福の時間”をもたらしてくれました。

(稲井 富赴代)