最近みたスポーツ漫画『風のフィールド』

今回のブログでは、わたしが最近よんだスポーツ漫画について報告したいと思います。というのも、後期は本学において「スポーツ社会学」、非常勤講師として「スポーツメディア論」の講義を担当しており、最近、スポーツ漫画・映画にふれたり、考えたりすることが多いからです。

最近よんだスポーツ漫画の一つに、『風のフィールド』(みやたけし著)があります。サッカーを題材とした漫画ですが、驚いたのは主人公である高校生の「風くん」を指導する「えくぼ先生」の指導方法です。

第1巻では、風くんがはじめて試合に出場し、そこでは「ただやみくもに力まかせにボールを蹴っているに過ぎない」という風くんの技術的課題が露呈します。このような課題を持つ選手に対して、みなさんならどんな指導をおこなうでしょうか。

練習中、えくぼ先生はおもむろにカッターを取り出し、「ボールがいちばんよく飛ぶポイントを知ってる?」と問いかけ、いきなり風くんの足の甲にカッターを突き立てます。当然、風くんは「ぐああああっ」と悲鳴をあげます。後日、風くんは思い悩みます。「なぜオレの右足を…しかもいちばん大事な所を傷つけたのか…」と。それでも風くんは特訓をつづけ、木の柱を素足で蹴り上げるほどのキック力を身につけます。

このシーンには、明確に「暴力」が描かれています。しかし、えくぼ先生の暴力行為は、第1巻をみるかぎり問題化されません。えくぼ先生が風くんにカッターを突き立てるところは、風くんの友人やその他の部員が目撃しているにもかかわらず、です。風くん自身は、先の疑問に対して、「この痛みは目印…強烈なシュートの目印!」と解答を与えます。

ところで、これまで体育・スポーツ科学は、スポーツ活動中に発生する暴力行為という問題に取り組んできました。たとえば、今年1月に開催された「緊急公開シンポジウム2019:我が国におけるスポーツの文化的アイデンティティ再考」においても、暴力の問題について議論がおこなわれました。シンポジウムの趣旨には「これまでの体育・スポーツ研究はどちらかといえば、スポーツ・運動の効果、長所などに焦点を当て、その『素晴らしさ』を訴求することに重点を置いてきた。このため、スポーツ隆盛の陰に潜む負の側面に関わるデータや知見は非常に少なく、危機と闇に対する感覚は鈍麻していると言わざるを得ない」とあり、スポーツに対するわたしたちの反省的な視点の重要性が強調されています。このような視点は、これからのスポーツ界を担う、本学スポーツ経営コースの学生のみなさんにも求められるものだと考えます。

漫画で描写されていることそのものは、実際に起こったことではありません。しかし、そのような物語が構成させる背後には、わたしたちが自明視してしまっているスポーツの姿が見え隠れしているように思えます。スポーツにとって暴力は、とても身近なものとなってしまっているのかもしれません。指導者が行使する暴力に対して、部員は何がしかの意味を見出してしまうのかもしれません。たとえば風くんの場合、えくぼ先生によってつくられた「刺し傷」を「強烈なシュートの目印」と解釈します。カッターで刺されたのですから、その傷は「刺し傷」以外のなにものでもないのですが、なぜかその「刺し傷」が「目印」と読みかえられてしまいます。それも単なる「目印」ではなく、「強烈なシュートの目印」となるわけです。

このように考えていますと、今年の夏におこなわれた日本体育学会で「浅田学術奨励賞受賞記念講演」に参加したことを思い出します。この講演は、体育哲学領域で企画されたものでした。松田先生が「『快としての体罰』にどう向き合うか」という演題で報告されていました。

松田先生の議論は、『運動部活動における体罰の意味論』(体育学研究、2016年)という論文でうかがい知ることができます。運動部活動空間では生徒が、指導者に課せられた「いい選手」という規範を内面化しています。この「いい選手」というものはとても曖昧な基準であるため、指導者はあらゆる生徒の行為に罰を与えることができます。この点が松田先生の主張の一つです。興味深い論文ですので、ぜひ読んでみてください。この論文は、WEBで入手することができます。(宇野 博武)