スポーツ経営コース学生の研究課題が日本体育学会学生研究助成に採択

今月、スポーツ経営コース髙原さん(3年)の研究課題が、日本体育学会体育経営管理専門領域2019年度学生研究助成として採択されました。この記事では、スポーツ経営コースの取り組みの一つとして、髙原さんの研究課題を紹介したいと思います。

髙原さんの研究課題は「スポーツ鑑賞能力の変容過程とその影響要因に関する研究:プロサッカークラブのファン・サポーターを事例として」です。

この研究課題は、「スポーツを見る」ことに関する髙原さんとの議論の中で着想されたものです。髙原さんは、特定のプロサッカークラブを10年間、ファンとして応援してきました。私もプロサッカークラブで働いていましたので、髙原さんとは「サッカーを見る」という行為に関する不思議な現象について幾つも議論することができました。

私たちが着目したのは、同じプロサッカーの試合を観戦しながらも、人によってその観戦経験の内実が大きく異なるという現象です。私自身、サッカーのプレー経験はほとんどありませんし、特定のサッカーチームを長期間応援し続けたこともありません。ですので、どちらかと言うと、サッカーを観戦するよりも、プレー経験のある器械体操や男子新体操を観戦する方が面白いと感じます。おおよそ10年ものファン経験がある髙原さんの方が、きっとそのチームの試合を楽しく観戦することができるでしょう。

もっとも、このように観戦経験の内実が人によって異なるということは、「サッカーを見る」ことに限った現象ではないと考えています。例えば、私は中学、高校時代に男子新体操に取り組んできました。今でも男子新体操の演技映像を視聴して楽しい時間を過ごすことができます。しかし、このことは妻にはまったく理解してもらえません。

スポーツ経営学では、このような現象を「スポーツ鑑賞能力」という概念によって説明しようとしてきました。醍醐ほか(2019)によれば、「スポーツ鑑賞行動」とは、スポーツ観戦行動の一つであり、とりわけ、「勝敗に代表される結果と同様に試合に関わるこれまでの過程や背景といった知識を理解し、自らの経験との比較や共感によって味わい楽しみ、他者と共有することを重要視する観客の見方」と定義されます。スポーツ鑑賞能力とは、スポーツ鑑賞行動に動員される「身体共感力」、「分析力」、「評価能力」などといった10能力によって構成される能力を意味します。要するにこの能力は、「スポーツをみる目が肥えている」人々を特徴づけるものであると考えることができるでしょう。

先行研究ではスポーツ鑑賞行動や能力の概念化、こうした能力の養成プログラムの検討といった課題に取り組まれていますが、髙原さんと私はスポーツ鑑賞能力の変化やそうした変化に関わる要因の探索という問題に取り組む必要性を特に認識しました。これは、先行研究では時間軸にそってスポーツ鑑賞能力が向上するということが想定されており、寧ろ、この能力が低下してしまったり、変化しないという現象についてあまり着目されていないように感じられたからです。これに関連する問題意識は、重松(2009)の「スポーツを見ることの概念的研究」でも触れられています。こうした点について理解を深めることは、プロスポーツクラブ・球団の経営にとっても重要なことであるように思われます。

私たちは、ファン・サポーターとして特定のスポーツを観戦し続ける人々の中でも、こうした能力の変化は様々であると考えています。こうした人々の鑑賞能力はどのように変化し、そうした変化にはどのような要因が関わるのかという問いがこの研究課題の中心的な問題です。まだまだ検討不足な点がたくさんありますが、今年度中に研究成果を挙げることができるよう、学生とともに頑張りたいと思います。ぜひみなさんからご指導を頂戴できれば嬉しく思います。

さて、明日、7月20日(土)は本学のオープンキャンパスが実施されます。経営学部の説明や体験学習もあります。ぜひたくさんの方に参加いただきたいと考えています。明日のオープンキャンパス実施内容については下記URLの通りです。
どうぞ宜しくお願いします。(宇野 博武)

2019年 第4回 オープンキャンパス

【参考文献】
醍醐笑部・木村和彦・作野誠一(2019)「バレエ鑑賞プログラムの効果と観客の鑑賞能力に関する研究:スポーツ鑑賞行動構造化の試み」『体育・スポーツ経営学研究』31巻1号,pp.1-23.
重松大(2009)「スポーツを見ることの概念的研究:蓮實のスポーツ批評とウィトゲンシュタインのアスペクト論から」『体育・スポーツ哲学研究』31巻1号,pp.27-44.