ネットワーク化による経営の変化

ネットワークの進歩は企業運営や消費者行動に大きな影響を与えている。
ここでは、特にネットワークの進歩が企業の商品生産・流通・小売に至るサプライチェーンに与えた影響について述べたい。
鉄鋼業における企業間ネットワークの構築は1960年代の鉄鋼製造企業と大手商社間の受発注システム構築に始まる。
1968年には(社)鋼材倶楽部で帳票・コード委員会が設置され、鉄鋼業界における送り状等のコードの統一が始まった。
当時日本は高度成長期の真只中にあり、生産した鋼材は産業基礎資材として産業基盤あるいは機械部品生産といった用途向けに生産する端から販売・消費される状況にあった。
さらに大手商社は多くの鉄鋼製造企業の鋼材を販売しており、鋼材品番・成分表示等は鉄鋼会社ごとに異なっているのが普通であった。
そこで、八幡製鉄・富士製鉄といった鉄鋼製造企業と三井物産・三菱商事といった大手商社はネットワークを経由してスムーズな鋼材流通のためのデータ交換を行うために、鉄鋼製造企業と大手商社といった大企業間のEDIシステムを構築していった。
そのEDIシステム構築をスムーズなものとするため鉄鋼流通に関する主要企業が集結してネットワーク(EDI)で交換されるデータの定義(プロトコル)を統一する作業を開始し、1970年代には大手鉄鋼製造企業と大手商社間の受発注のための「特定企業間EDIシステム」を実用化させた。
その次の1980年代はインターネットネットワークシステムの黎明期でもあり、欧州ではDECNETが商用に使われ始めた。
それと前後して、大企業を中心にインターネットプロトコルを使用したいろいろなネットワークシステムが構築され始めた。
鉄鋼業界としては1990年には鉄鋼ネットワーク研究会が設置され、1994年には鉄鋼EDI標準(1994年版)が刊行された。
しかしながら、このEDIシステムは、中小商社や中小コイルセンターといった多くの鋼材流通企業あるいは中小加工企業へ
展開するにはシステム構築・運用費用が依然として高価であり、普及の妨げとなっていた。
日本で中小企業を含む産業界全体を対象とするネットワーク化が本格的に議論され始めたのは通商産業省が中心となって推進した企業間高度電子商取引推進事業、いわゆるCALSプロジェクトからである。
CALSは、1985年に米軍が調達装備品の保守・維持・補給を効率化することを目的に始めたマニュアルの電子化プロジェクトとして生まれたといわれており、当初から「Create data once, Use it many times = 1度作ったデータを何度も使う」という概念をもっていた。この米国で発展したCALSを日本産業界に取り込むために、1996年に「Continuous Acquisition and Life-Cycle Support」という概念を加えて、情報処理振興事業協会(IPAと略す)のもとに生産.調達.運用支援統合情報システム技術研究組合が設立され、日本版CALSプロジェクトがスタートした。具体的なプロジェクトとしては、自動車CALS・鉄鋼CALS・電子機器CALS・建設CALS等が研究や実証実験を開始した。
さらに、CALSという概念は1997年には数度の国際会議を経て日本でも「CommerceAt Light Speed」の意味も加わり、企業間連携や仮想企業などといった壮大なビジョンとして語られるようになった。
また、チャンスがあれば、西暦2000年以降のインターネットの進歩が企業の経営に与えた影響について書きたいと思います。
(丸山 豊史)